俺は仕事から帰る途中、突然の電話に驚いた。 「交通事故で奥さんが亡くなりました。」 電話の声は淡々としていて、冷たかった。驚きと同時に、理解できない言葉が耳に入ってきた。 「えっ！うちに車ありませんよ？」 交通事故と言われても、車には乗らないし、なおかつ奥さんもいない。確かに、1年前に30歳の俺は妻と出会い、大学での生活を謳歌していたが、結婚しているわけではない。

パートとして働いている妻とは幸せな日々を過ごしていたが、子供はいなかったし、公には結婚していなかったので取りあえず聞き違いだと思った。 すると、電話の相手は冷静に言った。 「確認しに来てください。」 電話を切った後も、電話の内容が頭から離れなかった。夜が更けるにつれ、不安が増していく。

次の日、俺は早朝から電話のあった場所へ向かった。たどり着いた先は、大きな交差点の近くのお堂だった。 お堂の中には、警察官や救急隊員が立ち並んでいた。俺は焦りながらお堂に入り、警察官に事情を聞いた。 「こちらが遺体です。身元確認をお願いします。」 警察官が言った後ろには、白い布に包まれた遺体が横たわっていた。俺は顔色を失い、心の中で妻の名前を唱えた。

しかしその瞬間、俺の目に映ったのは、妻ではない。遺体の横には、浮気相手と思われる男性の姿があった。 驚きと共に、怒りが湧き上がってきた。 あの男と妻が一緒に亡くなっていたのか。浮気が発覚し、相手の奥さんからの賠償金の相談も無視したのだから、俺は彼らに何も返さなくていいと思った。

その日以降、俺の人生は激変した。浮気相手の奥さんは弁護士を雇ってきて、遺産や保険金の分割を要求してきたのだ。俺が無視していたところに罪悪感が芽生えてしまった。 俺は確かに妻とは結婚していなかったが、30歳にしては幸せな関係を築いていたと思っていた。しかし、彼女が浮気相手と交通事故で亡くなってしまったことによって、その幸せは一瞬にして崩れ去った。

結局、俺は奥さんの要求を受け入れざるを得なくなった。遺産や保険金の一部を自分に残してもらい、彼女の家族に渡すことになった。 葬式には行かなかったが、俺は彼女の死を深く悼み、心の中で弔った。あの日以来、浮気や信頼に対する価値観が変わった。 人の命や人間関係は軽んじてはならないことを学んだ。そして、いかなる状況でも真実を告げることの大切さも理解した。これからは他人の幸せに干渉することなく、誠実に生きることを誓ったのだった。